このページの要点
- 別紙は、契約書の条項を引き、個人として確認する位置づけにする。優先関係は契約書と書く。
- 秘密情報と個人情報は別の項目で書く。公知の情報の除外は個人情報には当てはめない。
- SNS・撮影・私物端末・貸与物・反社排除は、対象と例外を特定する。一律の禁止は守られない。
- 業務の範囲や稼働の量は契約書や個別契約で定め、損害賠償の額や違約金は誓約書に置かない。
結論:稼働開始時の誓約書は、契約書を補う「個人としての確認」に絞る
業務委託先や協力者に仕事を任せるとき、契約書に秘密保持、個人情報の取扱い、反社会的勢力の排除といった条項を置くのが通常です。それでも、稼働を始める時点で別に誓約書を取る場面があります。契約書の当事者は事業者や代表者であっても、実際に現場で情報や物に触れるのは、個人としての担当者や補助者だからです。誓約書は、契約書の条項を個人として確認させ、現場で扱う情報や物の取扱いを具体的に確認するための補助的な書面です。
この書面を作るときの要点は、次の五つです。
- 契約書に書いた内容を重ねて書くのではなく、契約書を引いて「個人として確認する」という位置づけにする。
- 秘密情報と個人情報を、別の項目として書く。守る根拠も、除外の考え方も違う。
- SNS・撮影・私物端末・貸与物・反社会的勢力の排除は、対象と例外を特定して書く。
- 業務の範囲、稼働の量、研修への参加など、仕事の進め方は、誓約書ではなく契約書や個別契約で定める。
- 損害賠償の額や違約金は、誓約書では決めない。責任は契約書に一本化する。
この五つを守ると、書面は短くなり、契約書との食い違いも減ります。短くなる分、署名する人が内容を読み切れるようになり、実際に守られやすくなります。署名の取り方は誓約書に署名してもらう手順、書面の骨組みは誓約書の書き方のページで整理しています。
別紙の誓約書で取るか、契約書本文に書くか
秘密保持や個人情報の取扱いは、契約書本文に書くこともできるし、別紙の誓約書にすることもできます。どちらが適切かは、書く内容と署名する人によって決まります。
別紙の誓約書と契約書本文の使い分け
| 観点 | 別紙の誓約書 | 契約書本文 |
|---|---|---|
| 向く内容 | 個人としての確認、現場で扱う情報や物の具体化、補助者への義務づけ | 当事者間の基本ルール(秘密保持の範囲、期間、責任、解除) |
| 署名する人 | 現場で情報や物に触れる個人(担当者、補助者) | 契約の当事者(事業者や代表者) |
| 内容を変えるとき | 個人ごとに取り直せる | 契約の変更の手続による |
| 食い違いの危険 | 契約書と重なると、期間や範囲が食い違う | 一本化でき、食い違いが出にくい |
| 書き方の要点 | 契約書の条項を引き、確認や補足という位置づけを明記する | 誓約書で取る個別の確認があるなら、そのことを書いておく |
別紙を使うときに最も注意したいのは、契約書との重複と食い違いです。同じ内容を別の言葉で書き直すと、期間や範囲がずれて、どちらが優先するのかが問題になります。優先関係は、別紙の冒頭に「本書と契約書とで定めが異なるときは契約書によります」と書いておきます。
もう一つの場面は、協力者や補助者が複数名関わるときです。契約書の当事者である事業者と、実際に作業をする人とが別のとき、作業をする人は契約書の当事者ではありません。契約書で「補助者に同等の義務を負わせる」と書いたうえで、補助者本人から誓約書を取ると、義務が現場の個人にまで及ぶ形になります。
書き方の例(一般的な例) 契約書との関係を整える
引用の仕方
理由言い回しの違いが、範囲の違いと読まれるのを避け、どちらによるかも決まります。
提出の時期
理由稼働が先行すると、署名までの間の情報の取扱いが、書面の外に置かれます。
補助者
理由現場で情報に触れる個人にまで、義務の根拠が届きます。
入れる項目:書面の例で全体を見る
稼働開始時の誓約書に入れる項目は、秘密情報、個人情報、撮影・録音・投稿、私物端末・クラウド、貸与物、補助者、反社会的勢力の排除、違反に気づいたときの報告、が基本です。次の例は、その全体像を示したものです。実際に使うときは、扱う情報や物に合わせて、項目を足したり引いたりします。
業務の開始にあたっての誓約書(例)
〇〇株式会社 御中
- (目的)本書に署名する者(以下「誓約者」といいます。)は、〇〇株式会社(以下「委託元」といいます。)との間の〇〇契約(以下「本契約」といいます。)に基づく業務を行うにあたり守る事項を、個人として確認します。本書と本契約とで定めが異なるときは、本契約によります。
- (秘密情報)誓約者は、業務に関連して知り得た秘密情報(本契約第〇条に定めるものをいいます。)を、業務の目的以外に使用せず、委託元の承諾なく第三者に開示しません。
- (個人情報)誓約者は、業務で取り扱う個人情報(個人情報保護法に定める個人情報のうち、委託元から取扱いを任されたものをいいます。以下同じ。)を、委託元の指示に従って安全に管理し、利用目的の範囲を超えて利用しません。業務が終了し、または不要になったときは、委託元の指示に従って返却または消去します。
- (撮影・録音・投稿)誓約者は、業務の現場、画面または資料を、委託元の承諾なく撮影・録音せず、非公開の情報やお客様の情報をSNSその他の場所に投稿しません。
- (私物端末・クラウド)誓約者は、秘密情報と個人情報を、委託元が許可した場所以外に保存しません。許可を受けていない私物の端末やクラウドサービスには保存しません。
- (貸与物)誓約者は、委託元から貸与された物を、別表に記載した目的に限って使用し、紛失または破損したときは、速やかに委託元へ報告します。
- (補助者)誓約者は、補助者(誓約者が業務のために使う人をいいます。)に秘密情報または個人情報を取り扱わせるときは、委託元の承諾を得たうえで、本書と同じ内容の義務を補助者に負わせます。
- (反社会的勢力の排除)誓約者は、自らが反社会的勢力に該当せず、将来にわたっても関与しないことを、本契約の定めと同じ内容で表明し、確約します。
- (違反に気づいたとき)誓約者は、本書に違反した、またはそのおそれがあることに気づいたときは、速やかに委託元へ報告し、委託元が求める是正措置に協力します。
〇年〇月〇日
住所
氏名(署名)
この例には、損害賠償の額や違約金の定めを置いていません。理由は、後の見出しで説明します。
例の項目の順序には理由があります。最初に目的と契約書との関係を置くのは、別紙の位置づけを読み手に伝えるためです。秘密情報と個人情報を続けて置くのは、守る対象の中心だからです。撮影・録音・投稿と、私物端末・クラウドは、その対象を現場で守るための、具体的な行為の線引きです。貸与物と補助者は、物と人に義務を広げる項目で、反社会的勢力の排除は、契約全体の前提を確認する項目です。最後に、違反に気づいたときの報告を置くのは、守れなかったときに何をするかをあらかじめ書き、問題を隠すほうへ向かわせないためです。
例の中では、定義語を初めて使う箇所で定義しています。「誓約者」「委託元」「本契約」は目的の条で、「個人情報」「補助者」はそれぞれが最初に登場する条で定義しました。定義語を使い始めてから別の箇所で定義すると、読み手が定義の前に別の意味で読んでしまうからです。定義語の置き方は、誓約書の書き方のページでも扱っています。
営業秘密と個人情報を分けて書く
稼働開始時の誓約書で、秘密保持と個人情報の取扱いを一つの条項にまとめてしまう書き方があります。短く済む利点はありますが、二つは守る根拠が違うため、混ぜると除外の考え方や期間が合わなくなります。
営業秘密は、不正競争防止法で、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものと定義されています(同法2条6項)。営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された者が、不正の利益を得る目的または保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、または開示する行為は、不正競争のひとつです(同法2条1項7号)。そのため、営業秘密として守られるには、秘密として管理されていることが前提になります。誓約書で守る範囲を明確にし、秘密として扱うべき情報であることを個人に確認させておくことは、この管理の一環としての意味を持ちます。
一方、個人情報は、特定の個人を識別できる情報であり、個人情報保護法の対象です。個人情報取扱事業者は、取り扱う個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならず(同法23条)、従業者に個人データを取り扱わせるときは必要かつ適切な監督を行わなければならず(同法24条)、個人データの取扱いの全部または一部を委託するときは、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)。委託元が個人情報取扱事業者で、個人データの取扱いを業務委託先に任せる場合には、委託先に取扱いのルールを個人として確認してもらうことが、委託先の監督の一部として役に立ちます。
秘密情報と個人情報の違い
| 観点 | 秘密情報(営業秘密を含む) | 個人情報(個人データ) |
|---|---|---|
| 守る対象 | 事業上の有用な情報で、非公開のもの | 特定の個人を識別できる情報 |
| 根拠の中心 | 契約。営業秘密に当たるものは、不正競争防止法 | 個人情報保護法(安全管理措置、委託先の監督など) |
| 公知の情報の除外 | 公知の情報は、守る対象から外すのが通常 | 公知になっていても、個人情報としての取扱いは別に考える |
| 業務の終了後 | 契約で定めた期間、使用や開示を制限する | 利用する必要がなくなったときは、遅滞なく消去するよう努める(個人情報保護法22条) |
特に、「公知の情報を除く」という除外規定を個人情報に当てはめると不都合が出ます。名前や連絡先が一部でインターネット上に公開されていても、業務で預かった個人情報を自由に使えるようになるわけではありません。秘密情報の定義の除外事由と、個人情報の取扱いの条項は、別々に書いておきます。個人情報とSNSの扱いは、個人情報の取扱い・SNS投稿に関する誓約書のページで、さらに詳しく扱っています。
SNS・撮影・貸与物・反社会的勢力の排除:対象と例外を特定する
現代的な行為への備えとして、SNSへの投稿、撮影・録音、私物端末やクラウドへの保存、貸与物の扱いを書く場面が増えています。ここで重要なのは、禁止する対象を特定することです。「SNSへの投稿を一切禁止する」と書くと、守れない書面になり、実際には守られません。守る対象は、非公開の情報、お客様や利用者の情報、制作中の成果物など、業務で扱う情報に絞ります。
- SNS・投稿。禁止するのは、非公開の情報やお客様の情報の投稿です。自分が行った仕事の実績として公開してよい範囲は、事前に委託元へ確認する、などの例外を置くと運用しやすくなります。
- 撮影・録音。業務の現場、画面、資料の撮影・録音を、委託元の承諾なく行わない形にします。承諾を得る手順を決めておきます。
- 私物端末・クラウド。情報を保存できる場所を、委託元が許可した場所に限ります。許可なく私物の端末やクラウドに保存しない、という形です。
- 貸与物。別表で貸与物の一覧を示し、使用目的、保管、紛失時の報告を書きます。返却は、契約終了時の問題として、契約終了時の誓約書・確認書で整理します。
- 反社会的勢力の排除。自らが該当しないことと、将来にわたって関与しないことの表明・確約を、本契約の定めと同じ内容で確認します。違反したときの解除などの効果は、契約書本文に置きます。
書き方の例(一般的な例) 対象と例外を絞る
SNSの投稿
理由禁止の対象を特定し、守れる範囲に絞ります。守れない書面は、実際には守られません。
保存の場所
理由何をもって持出しとするのかが具体的になり、運用しやすくなります。
反社会的勢力
理由定義を契約書に一本化し、別紙との食い違いを避けられます。
業務の範囲、稼働の量、研修は、誓約書ではなく契約書や個別契約で定める
誓約書は、守る事項、つまり情報や物の取扱いの線引きを確認する書面です。業務の範囲、納期、報酬、稼働の量、研修への参加といった、仕事の進め方に関する事項は、業務委託契約書、個別契約、発注書などで定めるのが本筋です。誓約書に混ぜると、三つの問題が出ます。
- 契約書や発注書と重なり、内容が食い違う。
- 誓約書は誓約者だけが署名する一方的な書面なので、委託元側の義務(報酬の支払、条件の明示など)が書かれない。
- 本来、委託元が明示すべき事項が、誓約書の中にあるのか契約書側にあるのかが分からなくなる。
特定受託事業者に対する業務委託では、委託元に明示の義務があります。業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をした場合は、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法により明示しなければなりません(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律3条1項)。特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員を使用しない法人をいいます(同法2条1項)。誓約書は、誓約者が委託元に差し出す書面ですから、この明示を代替するものではありません。明示すべき事項は、契約書、発注書、個別契約の側で整えます。
この観点からも、誓約書に書く内容は「守る事項」に絞るのが安全です。業務の進め方や量に関する事項を誓約の形で書くと、委託元の側から一方的に約束させたように読まれ、契約書の内容との整合も取りにくくなります。
損害賠償の額や違約金は、誓約書では置かない
誓約書に「違反したら一定額を支払います」と書いて、抑止にしたいという要望があります。しかし、損害賠償の額を前もって決める定め(賠償額の予定)は、民法で認められているものの(民法420条1項)、違約金は賠償額の予定と推定されます(同条3項)。額を決めれば、実際の損害がそれより大きくても小さくても、原則としてその額で処理することになり、扱いが固くなります。
そのうえ、誓約書に額を置くと、契約書の責任条項と二重になります。契約書に損害賠償の範囲や上限が書かれている場合、誓約書で別の額を決めると、どちらが優先するのかが問題になります。責任の範囲は契約書に一本化し、誓約書には、違反に気づいたときの報告と、是正措置への協力までを書くのが安全です。債務不履行による損害賠償の請求は、契約の一般ルール(民法415条)で足ります。
書き方の例(一般的な例) 違反したときの扱い
違反時の定め
理由責任の枠組みを契約書に一本化し、誓約書の内容が重くなるのを避けられます。
なお、違約金や保証人を書面に入れる場合の法律上の限界は念書に違約金・保証人・差押えの承諾を入れるときで、重すぎる条項の型は重すぎる誓約書の見分け方と直し方で整理しています。
起きがちなこと
稼働開始時の誓約書で起きがちなこと
- 契約書と同じ内容を別の言葉で重ねて書き、期間や範囲が食い違う。
- 秘密保持と個人情報を一つの条項にまとめ、公知の情報の除外が個人情報にも当てはまるように読める。
- 「SNSへの投稿は一切禁止」など、守れない書き方をして、実際には守られない。
- 貸与物の一覧がなく、何を預けたのかが後から確認できない。
- 補助者の扱いが書かれておらず、現場で情報に触れる人まで義務が届いていない。
- 業務の範囲や稼働の量を誓約書に書き、契約書や発注書との整合が取れない。
- 誓約書に違約金を置き、契約書の責任条項と二重になって、どちらが優先するのかが決まっていない。
稼働開始時の誓約書は、契約書の補助として、短く、現場で守れる形に整えるのが基本です。全体の位置づけは誓約書と念書の違いのページで整理しています。
よくあるご質問
契約書に秘密保持の条項があれば、誓約書は不要ですか?
契約書の条項で足りる場合もあります。誓約書が働くのは、実際に情報や物に触れる個人に、内容を確認してもらいたいときです。契約の当事者が事業者であっても、現場の担当者や補助者は契約書に署名していません。その場合は、契約書の条項を引いて「個人として確認する」位置づけの別紙を、補助的に使います。
補助者や協力者にも、誓約書を取るべきですか?
業務で秘密情報や個人情報に触れる補助者がいるなら、取るのが安全です。契約書に「補助者には同等の義務を負わせる」と書いたうえで、補助者本人から誓約書を取ると、義務が現場の個人まで届きます。個人情報の取扱いを任せる場合は、委託先を監督する義務との関係でも(個人情報保護法25条)、取扱いのルールを個人として確認してもらうことが役に立ちます。
秘密情報と個人情報は、同じ条項にまとめてもよいですか?
まとめることは可能ですが、除外の考え方や、業務終了後の扱いが違うため、別の項目として書くのが安全です。営業秘密は、秘密として管理されていることが前提になります(不正競争防止法2条6項)。個人情報は、個人情報保護法に基づく取扱いが別に求められます。公知の情報の除外を個人情報にも当てはめると、不都合が出ます。
稼働日数や研修への参加を、誓約書に書いてもよいですか?
誓約書は、情報や物の取扱いなど、守る事項を確認する書面です。業務の範囲、稼働の量、研修への参加といった仕事の進め方は、契約書や個別契約、発注書で定める事項です。誓約書に混ぜると、契約書との食い違いや、委託元の義務が書かれないという問題が出ます。特定受託事業者に委託するときの明示義務(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律3条1項)も、契約書側で果たします。
反社会的勢力の排除は、誓約書だけで足りますか?
契約書本文に、定義と、違反したときの解除などの効果を置くのが本筋です。誓約書では、その契約書の定めと同じ内容を、個人として表明・確約してもらう位置づけにします。誓約書だけに書くと、定義や解除の根拠が契約書側になく、書面間で食い違うおそれがあります。
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