このページの要点
- 確認するのは、貸与物の返還、情報の返却・削除、守秘の再確認、公開発信の範囲の4点に絞る。
- 契約中の誓約書や契約書にある義務は、新しい義務にせず確認として書き、契約書の条項を引く。
- 削除の確認は申告にとどまる。委託元側の権限の解除などと併せて行い、保存が必要なものは例外に残す。
- SNS条項は対象を特定し、法令に基づく通報その他の正当な権利の行使を妨げない旨を入れる。報酬の支払と署名を引き換えにしない。
結論:契約終了時の書面は「確認書」に寄せ、確認する4点に絞り、新しい義務を足さない
業務委託先、代理店、講師、協力者との契約が終わるとき、貸与した物やデータ、守秘義務がどうなるのかを、書面で確認しておきたい場面があります。このときの書面は、「誓約書」と題して将来の約束を新たに取りつけるより、「確認書」として、すでに契約で決まっていることが守られている事実を確認するものにしておくほうが、書き方も署名の取り方も安定します。
確認する事項は、次の4点に絞ります。
- 貸与物の返還。貸与した物を、いつ、何を返したか。
- 情報の返却と削除。業務で保有していた秘密情報や個人情報を、返却または消去したか。
- 守秘の再確認。契約で負っていた秘密保持の義務が、契約の定めに従って続くこと。
- 公開発信の範囲。秘密情報や個人情報を、SNSその他の場所に公開しないこと。
貸与物や受け取った物の返還は、書面の有無にかかわらず、契約の性質によって義務となる場合があります。たとえば、委任の性質をもつ契約では、受任者は、事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を、委任者に引き渡さなければなりません(民法646条1項)。この規定は、法律行為でない事務の委託(準委任)にも準用されます(民法656条)。確認書は、この義務が果たされた事実を、日付とともに記録するための書面です。
契約書にすでに存続条項や返還の条項があるときは、確認書はそれを引いて、「契約の定めに従って、次の事実を確認する」と書きます。契約書を超える新しい義務を書き込まないことが、この書面の安定の鍵です。契約開始時の書面は業務委託・協力者の稼働開始時の誓約書で整理しています。
確認する4点の書き方と、確認の方法
確認する4点
| 確認する事項 | 書くこと | 確認の方法 | 書き方の注意 |
|---|---|---|---|
| 貸与物の返還 | 返還した物の一覧、返還した日 | 貸与時の一覧(別表)と照合し、受け取った側が受領を記録する | 「貸与された一切の物」ではなく、一覧に基づいて特定する |
| 情報の返却・削除 | 返却した情報、消去した情報の範囲 | 対象の媒体や場所を一覧にし、返却・消去した旨を報告してもらう | 法令や契約で保存が求められているものは、例外として残す |
| 守秘の再確認 | 契約中に負った秘密保持の義務が、契約の定めに従って続くこと | 契約書の条項を引いて確認する | 終了時に新しい期間や範囲を作らない |
| 公開発信の範囲 | 秘密情報、個人情報、非公開の成果物を公開しないこと | 対象を特定して書く | 業務や相手方についての発信を一律に禁じない |
表の「確認の方法」は、書面だけで完結しません。貸与物は、受け取った側が受領を記録します。情報の返却・削除は、確認者の申告に頼る部分が大きいため、委託元側でできる手立て(共有フォルダの権限の解除、アカウントの停止など)と併せて行います。この点は、後の見出しで詳しく扱います。
契約中に誓約書を出しているなら、「新しい義務」にせず「確認」にする
契約の終了時に、新しい義務を足そうとする書面がよく見られます。たとえば、終了後は同種の業務を行わない、秘密保持の義務を無期限に負う、といったものです。契約中の誓約書や契約書にすでに書かれた義務を確認するのではなく、新しい義務を、終了のタイミングで取りつけようとする書き方です。
この書き方には、二つの問題があります。第一に、契約の終了時は、署名する側が最後の報酬の支払を控えているなど、署名を断りにくい状況にあることが多く、署名の任意性が後で争われやすくなります。署名を強いられたと主張されれば、強迫による意思表示の取消し(民法96条1項)の争点になります。第二に、新しい義務の内容が広いと、公序良俗に反するとして効力が否定される危険があります(民法90条)。
対策は、書面の位置づけを明確にすることです。契約中に負った義務を「確認する」と書き、契約書や誓約書の条項を引きます。終了後の行為を制限したい場合は、契約の終了より前に、対価を含めた別の合意として話し合う問題になります。終了後の競業避止や勧誘禁止の組み立て方は、競業避止・勧誘禁止の書き方のページで整理しています。
書き方の例(一般的な例) 新しい義務ではなく、確認として書く
新たな義務
理由契約になかった義務を、署名を断りにくい時期に足すと、署名の任意性が争われやすくなります。
期間
理由契約書の期間と食い違わせず、確認にとどめます。
貸与物
理由一覧に基づいて特定すると、返したかどうかが後から確認できます。
次の例は、契約終了時の確認書の全体像です。契約書や誓約書の定めを引いて、事実を確認する書き方にしています。
契約終了に伴う確認書(例)
〇〇株式会社 御中
- (目的)本書に署名する者(以下「確認者」といいます。)は、〇〇株式会社(以下「委託元」といいます。)との間の〇〇契約(以下「本契約」といいます。)が〇年〇月〇日に終了することに伴い、次の事項を確認します。
- (貸与物の返還)確認者は、別表に記載した貸与物を、〇年〇月〇日に委託元へ返還しました。
- (情報の返却・消去)確認者は、業務により保有していた秘密情報および個人情報のうち、委託元が指示した対象を、返却または消去しました。法令または本契約の定めにより保存が必要なものは、委託元の承諾を得て、保存する範囲を別に記載したとおり保管します。
- (守秘の確認)確認者が本契約により負っていた秘密保持の義務は、本契約の定めに従って続くことを、確認します。
- (公開発信)確認者は、秘密情報、個人情報および非公開の成果物を、SNSその他の場所に公開しません。ただし、法令に基づく通報その他の正当な権利の行使を妨げるものではありません。
- (変更の連絡)上記の事項に変更があったときは、確認者は、速やかに委託元へ連絡します。
〇年〇月〇日
住所
氏名(署名)
受領 〇年〇月〇日 受領者 〇〇
この例は、新しい義務を設けず、契約で決まっていることを確認する形にしています。損害賠償の額や、終了後の行為の制限は置いていません。
返却と削除の確認方法:どこまで確かめられるか
貸与物は、現物を渡すので、返還を確認しやすい対象です。難しいのは、データの削除です。データは、複数の場所にコピーが残りやすく、削除したことを外から確かめにくいからです。確認書に「削除しました」と書いてもらうことには意味がありますが、それによって、削除の事実そのものが証明されるわけではありません。確認者の申告が書面に残る、という意味にとどまります。
返却・削除の確認の流れ
- 対象を一覧にする貸与物、データ、アカウント、共有フォルダ、メッセージアプリのグループなど、返却・消去・解除の対象を一覧にします。
- 委託元側でできる手立てを先に行う共有フォルダの権限の解除、アカウントの停止など、委託元側で止められることは、確認者の対応を待たずに行います。
- 確認者が返却・消去し、報告する確認者が、対象を返却または消去し、その旨を報告します。報告の方法と提出の期限を決めます。
- 委託元が受領し、確認する返却された物を受領し、報告された内容を確認します。
- 確認書に日付と署名を入れる確認者が日付と署名を記入し、委託元が受領を記録します。
- 控えを渡し、保管する確認者に控えを渡し、原本を版の番号とともに保管します。
削除の確認で起きがちなことと、防ぎ方
私物のスマートフォン
起きがちなこと写真や資料が端末に残っている。
防ぎ方対象に、写真アプリ、メッセージアプリ、メモなどを具体的に挙げ、消去した旨の申告を確認書に入れる。
個人のクラウド
起きがちなこと業務データを個人のクラウドにコピーしていて、そのまま残る。
防ぎ方コピー先として使った場所を確認者に申告してもらい、消去を確認する。委託元の管理する場所の権限は、先に解除する。
メッセージアプリ
起きがちなことやり取りの履歴に、資料や個人情報が残る。
防ぎ方業務用のグループから退出する手順を決め、履歴の扱いを書く。
バックアップ
起きがちなこと消去したつもりでも、自動バックアップに残る。
防ぎ方バックアップに残り得ることを前提に、利用目的外には使わないことを確認する。
個人データの扱いについては、個人情報取扱事業者は、利用する必要がなくなったときは、個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならないとされています(個人情報保護法22条)。これは努力義務で、消去したかどうかを外から確認する手立てそのものを定めた規定ではありません。ですから、確認書は、消去の依頼と、その履行の申告を記録する書面と位置づけ、委託元側の権限の管理を併せて行います。
また、法令や契約で保存が求められているものは、消去の対象から外します。保存の必要がある物を一律に消去させると、別の義務に反する危険があります。保存する物と範囲を、確認書に明記しておきます。
SNS・口コミの条項で、封じられない範囲
契約の終了時に、SNSや口コミサイトへの投稿を封じる条項を入れたいという要望は多くあります。ただし、「委託元や関係者についての一切の投稿を禁止する」といった書き方は、広すぎて、書いたとおりの効力が認められない危険があります。公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は無効です(民法90条)。表現の自由に関わる範囲を全面的に封じる条項は、守るべき利益との釣り合いが問われます。
確認書で守る対象は、秘密情報、個人情報、非公開の成果物など、守るべき利益がはっきりしているものに絞ります。事実に基づく感想や評価まで一律に禁じる書き方は避けます。
法令に基づく通報についても、配慮が要ります。公益通報者保護法7条は、同法2条1項各号に定める事業者は、同法3条各号および6条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対し、賠償を請求することができないと定めています。同法の保護を受けるのは、条文が定める類型の通報者が、通報対象事実について、所定の通報先に、所定の要件で通報した場合に限られます。2条1項が掲げる通報者は、労働者または労働者であった者、派遣労働者、請負契約などに基づく事業に従事する労働者、役員といった類型で、業務委託先の個人事業者が、そのままこれらに含まれるとは限りません。個々の当てはまりは、条文と所管官庁の資料で確認が必要です。そのため、書面に「いかなる通報も行いません」と書くのは避け、法令に基づく通報その他の正当な権利の行使を妨げない旨を、但書として入れておくのが安全です。
書き方の例(一般的な例) 公開発信の範囲を絞る
投稿の禁止
理由守る対象を特定し、封じられない行為を但書で残すと、書面全体の効力が保たれやすくなります。
名誉に関する発言
理由禁止の範囲を、事実に反する内容を害意で公開する行為に絞ります。それでも、実際の適用は事情によって判断されます。
通報の禁止
理由法令に基づく通報の保護と衝突し、条項全体の信用を落とします。
SNSと個人情報の取扱いを、契約期間中も含めて整理した内容は、個人情報の取扱い・SNS投稿に関する誓約書のページにあります。
確認書に入れない項目
契約の終了時に、確認書へ入れたくなる項目の中には、確認書の性質に合わないものがあります。次の項目は、入れないか、入れるなら別の合意として慎重に扱います。
- 終了後の競業避止・勧誘禁止。職業を選ぶ自由や取引の自由に関わるため、期間・地域・対象・対価を含めた別の合意として扱います。組み立て方は競業避止・勧誘禁止の書き方で整理しています。
- 賠償額や違約金。責任は契約書の責任条項に一本化し、確認書には置きません。違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。書面に入れる場合の限界は念書に違約金・保証人・差押えの承諾を入れるときで扱っています。
- 「一切の損害を賠償する」「異議を述べない」といった包括的な文言。重く読まれ、書面全体の信用を落とします。直し方は重すぎる誓約書の見分け方と直し方にまとめています。
- 契約書にない無期限の義務。期間は、契約書の定めに従います。
- 将来の権利の包括的な放棄。返却や削除を確認する書面の範囲を超えます。
これらを省くと、確認書は短くなります。短くなれば、署名する側が内容を読み切りやすくなり、署名の任意性も説明しやすくなります。確認書は、足す書面ではなく、絞る書面です。
署名を求める時期と、終了合意書との関係
確認書への署名を求める時期は、貸与物の返還や情報の消去が済んだ時点が自然です。返還や消去の前に署名を求めると、これから行うことを確認する書面になり、確認ではなく約束になってしまいます。
避けたいのは、未払の報酬の支払と、確認書への署名とを引き換えにする運び方です。報酬の支払は契約上の義務で、確認書への署名とは別の問題です。署名しなければ報酬を払わない、という構図になると、署名の任意性が争われ、強迫による取消しの主張を招きやすくなります(民法96条1項)。報酬の支払は、契約の定めに従って行い、確認書は別に求めます。
契約を合意で終了させる場合は、終了の合意書が別にあることがあります。終了合意書は、契約を終える合意と、精算の条件(支払の有無など)を定めます。確認書は、返却・削除・守秘の事実を確認します。この二つは性質が違うので、一枚の書面にまとめるなら、見出しを分けます。署名の取り方は、誓約書に署名してもらう手順のページと共通です。署名が得られない場合は、受け取った側が貸与物の受領を記録する受領書を作る方法もあります。
確認の問い署名を求める前に確かめる問い
確認書は、返還や消去が済んだ後に求めているか。
理由済む前に署名を求めると、確認ではなく、約束になります。
契約書や誓約書にない義務が、確認書に入っていないか。
理由新しい義務を足すと、署名の任意性や効力が争われます。
報酬の支払と、署名とを、引き換えにしていないか。
理由報酬の支払は契約の問題で、署名とは切り離します。
削除の確認を、確認者の申告だけに頼っていないか。
理由委託元側の権限の解除など、できる手立てを併せて行います。
起きがちなこと
契約終了時の書面で起きがちなこと
- 契約の終了時に、契約書にない義務(無期限の守秘、終了後の競業の禁止)を新しく書き込む。
- 「貸与された一切の物」と書き、何を返したのかを、後から確認できない。
- 「削除しました」の一文だけで足りるとして、委託元側の権限の解除を行っていない。
- SNSや口コミへの投稿を一律に禁止し、書面全体の信用を落とす。
- 通報を禁止する条項を置き、法令に基づく通報の保護と衝突する。
- 未払の報酬の支払と、署名とを引き換えにして、署名の任意性が争われる。
- 契約書の存続条項と、確認書の守秘の期間が食い違う。
終了時の書面は、署名する側が最も疑いを持ちやすい場面で取るものです。確認に徹し、契約書を引き、範囲を絞った書き方にしておくことが、書面を安定させます。署名後に内容に納得できないと言われたときの考え方は、誓約書のトラブルとよくある質問で整理しています。
よくあるご質問
契約の終了時に、誓約書や確認書は必ず必要ですか?
必ず必要というわけではありません。契約の性質によっては、受け取った物を引き渡す義務が、書面がなくても生じます(委任・準委任について民法646条1項、656条)。ただし、返還や消去が済んだ事実を日付とともに残しておくと、後の「返していない」「消していない」という争いを減らせます。その意味で、確認書を取る価値があります。
データを削除したことは、確認書で証明できますか?
確認書は、確認者が削除した旨を申告した記録にはなりますが、削除の事実そのものを証明するわけではありません。データは複数の場所にコピーが残りやすいからです。確認書とあわせて、共有フォルダの権限の解除やアカウントの停止など、委託元側でできる手立てを行います。個人データの消去については、個人情報保護法22条に努力義務があります。
SNSへの投稿は、一切禁止できますか?
一律の禁止は広すぎ、書いたとおりの効力が認められない危険があります(民法90条)。守る対象は、秘密情報、個人情報、非公開の成果物などに絞ります。法令に基づく通報その他の正当な権利の行使は妨げない旨も、但書として入れておくのが安全です。公益通報者保護法7条の適用は、通報者の類型と要件に左右されるため、条文で確認が必要です。
最後の報酬の支払と引き換えに、署名を求めてもよいですか?
おすすめできません。報酬の支払は契約上の義務で、確認書への署名とは別の問題です。引き換えにすると、署名の任意性が争われ、強迫による意思表示の取消し(民法96条1項)の主張を招きやすくなります。報酬は契約の定めに従って支払い、確認書は返還や消去が済んだ後に、別に求めます。
契約書に存続条項があれば、確認書は不要ですか?
存続条項があれば、守秘などの義務は契約書の定めで続きます。確認書は、それを繰り返すためではなく、貸与物の返還やデータの消去が済んだ事実を記録するために使います。その場合も、契約書の条項を引き、新しい期間や範囲を作らない書き方にします。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、書面の内容や署名に至る経緯によって異なることがあります。書面の作り方に絞った解説で、個別の紛争の見通しは扱いません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 消費者庁